家の近くには大きな川が流れていた。水が澄んでいて、とてもきれいな川だった。暑い日には近所の友人たちと泳いで遊んだ。
 だが川に入るときは、決して1人ではいけない、と大人たちからしつこいほどに言われていた。
 なぜなら1人でいると、河童が足を引っ張って水底に沈めてしまうからだ。
 しかしそんなものは1人では危険だから、という教訓を含んだ迷信だろう。子供たちも一様に河童なんているわけがない、と口にしていた。だがその一方で、1人で川に入ろうとする者は誰もいなかったのも事実だ。
 僕も皆と一緒に「河童なんて」と言っていたが、その実、見たこともない河童の姿を想像しては背筋が寒くなった。

 「試してみようぜ」
はす向かいに住んでいる大輔がそう言い出したのは、ある夏の夕暮れだった。
 ちょうど僕らが川のそばを通りかかったとき、大輔はいたずらな笑みを浮かべて言ったのだ。
 「危ないよ。もし溺れたら、、、」
ごにょごにょと大輔に反論した。力のない反論だったが、、、。
 僕は夜の暗がりを1人で歩くのも避けるほど、恐がりだった。だからこんなことに賛同でもして、自分が川に入ることになったらと、それを恐れたのだ。
 「怖いのか? 俺が川に入るよ、だったらいいだろ?」
大輔はきっぱりと言った。その口調からして、河童の存在を本当に信じていないのだろう。
 彼は、この辺りの子供の中では最も運動神経がよかったし、泳ぎも達者だった。だから彼なら大丈夫だろう。そんな気がして、とうとう了解してしまった。
 それに僕は内心喜んでもいたのだ。恐れる反面、河童がいるのかいないのか興味があった。それを他人が自ら進んで調べてくれる。少しわくわくしていた。今思えば僕は、なんとずるい子供だったのだろう。

 あたりはもう夕闇が迫っていた。
 大輔は靴を脱ぐと川に入って泳ぎ始めた。ときおり川岸にいる僕に、手を振る余裕まで見せる。このまま何事もなく戻ってくるに違いない。やはり河童はいなかったのだ。ほっとして口元に笑みが浮かぶ。
 その時だ。
 「大輔!!」
変だった。突然大輔の体が視界から消えた。
「大輔ぇー!!」
もう一度呼ぶ。潜っただけだろうか?

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