ーーあがってこない。僕はもう一度呼ぼうと、手を口元に持っていった。
 ジャバッ  水音。  水しぶきがあがる。
 大輔の顔がかろうじて水面から出た。右手を上げる。
「たすけ、、、くる、、、し、、、」
溺れているのだ!
 激しく右手を上下させ、川面を叩くようにしている。だが、、、何か不自然だった。それが何なのかはわからないが、とにかく川のそばへと駆け寄った。
 「ーー!!」
そばに寄ってはじめてわかった。さきほど感じた違和感の正体が。
 それは『手』だった。大輔はひたすら右手だけをばたつかせていた。なぜ両手を使おうとしなかったのか。その理由が見て取れた。
 それもまた『手』なのだ。大輔の左手を青白い手が、しっかりと握っていた。そして大輔の首にも、もう1本の手がまわされている。水から出すまいと押さえ込んでいる。
 足元でカチカチ音がする。足がふるえ、その振動が砂利に伝わっているらしい。恐怖で動けない。声も出ない。口の中がひどく乾いている。助けを求める声がずっと遠くに聞こえ、ただ、目だけがそこに釘付けとなっていた。
 あたりはもう薄暗かったが、溺れる大輔の体は水に沈んだ部分も、うっすらと影になって見えている。
 だが大輔にまとわりつく、あの青白い手の持ち主はどこにも見当たらない。二の腕あたりまでしか存在しないかのように。いや、存在していないのだ!
 あれが、河童だというのだろうか? あの手が、、、。あれでは、まるで、、、、。
 「わぁっ!!」
足首に冷たい感覚。氷水を浴びせられたような、、、。
 慌てて視線を落とすと、、、右の足首を濡れた手が力強く握っていた。
 驚いて、そのまま尻餅をついた。したたか腰を打ったが、痛みを感じる余裕などない。
 ジャリッ、、、ジャリッ、、、ジャリッ、、、ジャリッ、、、
引きずられていく! 川に向かって! 強い力で足を引っ張っていく!!
 「ーーーーーっ」
恐怖で頭は真っ白だ。思うのは、ひたすら『助けてほしい』ということだけだ。
 白い手が、笑っている。僕を引きずりながら笑っている。手だけしか存在しないのに、だ。だが確かに恐怖に震える僕を、あざ笑っている。川底に沈める瞬間を想像して、楽しんでいる。そう、感じられた。
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