2.「宝石箱〜冥闇(くらやみ)の境界線1〜」 

 爽やかな風が、薄いカーテンを揺らすある日の午後。
 少女は窓辺近くの長椅子に静かに腰掛けていた。淡い金の髪は風にふわりと舞い、その細い髪が光の糸のように見える。ブルーの瞳は、机に向かう1人の男に向けられていた。
 髪にも髭にも白いものが目立つ、老人といっていい年恰好だ。
 彼は先程から手元を見つめ、熱心に作業を進めている。
 室内には、ときおり鳥の声がする以外、木を削る音だけが響く。
 少女はウサギのぬいぐるみを抱き、その音に耳を傾けながら、彼の様子をじっと眺めていたのだが、ふいに小さくため息を吐く。
「つまらないわ」
 呟くのではなく、老人の耳に届くよう、はっきりと大きな声で言った。
 果たして、少女の言葉は老人の耳に捉えられ、その涼やかな声音に答えが返される。
「ああ、すまない。シルフィー」
 彼は椅子からゆっくり立ち上がると、少女の傍へ歩を進める。
 目線を合わせるために、長椅子の前に膝をつくと
「足は大丈夫か?痛まないかい?」
これ以上ないほどの、やわらかな笑みを浮かべて問いかけた。
「痛くないわ。ただ、退屈なだけ」
 老人の瞳をまっすぐに見つめて、シルフィーはさらりと答える。
 その目をはずし、老人は少女の右足に視線を落とすと、苦いものでも飲み込んだような顔をした。
 彼女の右足は、左足とは異なっている。膝から下は「木」である。それは老人が少女に合わせて作り上げた義足だ。よくできてはいるが、不自由であることに変わりはない。
 老人は繊細なガラス細工に触れるように、そっとシルフィーの右膝に手をのせると、
「すまない・・・すまない、シルフィー」
吐き出すように、謝罪の言葉を口にした。
 俯いたままの老人に、シルフィーは訝しげに問いかける。
「どうして、あやまるの?」
 彼女は義足となった理由を知らない。いや、忘れてしまっているのだ。
「あぁ・・・シルフィー。お前が思い出してくれたら!私は・・・私は絶対にヤツを見つけ出して・・・!!」
 老人の声は、見えない相手への怒りに震えた。
「ねえ、どうしたの?」
 愛らしい声が、今まで以上に近くで聞こえた。シルフィーが横から顔をのぞき込むようにしている。
「・・・大丈夫。なんでも・・・なんでもないよ」
 取り繕うように笑って見せると、シルフィーの頭を優しく撫でながら老人は言う。
「退屈なら・・・そうだ!お話をしてあげよう」
 言いながら少女の横に座り直す。
「お話?どんなお話をしてくれるの?」
 シルフィーは期待に満ちた目を向けた。
「少し可哀相なお話だよ。とても仲の良い恋人たちの話さ・・・」
 少女の顔が眩しいかのように目を細めると、老人は語り始めた。

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