限りなく白に近い、淡い淡い桃色に包まれて、あるかなしかの小道をゆったりと歩いている。
天からは、はらほろと小さな花弁が舞い落ちて、地を埋めていく。
細い道の先へと目を向ければ、上も下もすっかり同じ色に染まっている。辺り一面を淡い桃色が覆い尽くす。
これでは、どちらが天でどちらが地なのか、わからなくなりそうだ。いや、それどころか今現在立っている場所こそが、天なのかもしれない。この美しい桜に心を奪われて、ぼんやりと歩いているうちに私の天地は逆転したのではなかろうか?
そんな奇妙な感覚に、ふと目の前がぐらりとする。
「ここにはさすがに花見の客はいないのだね」
ともすれば何処かへ行ってしまいそうな意識を捕まえておかねば、とばかりに、私は友人に声をかけた。
かの友は、先程から一言も発することなく、私の斜め後方についてきている。
桜に見とれる私の心に配慮したのか、それとも自身もまた、何がしかの思いに心を捕われていたのか。どちらかはわからないが、私の問いかけに初めて口を開いた。
「それはそうだ。ここの桜を知るものは少ないからな。その方がありがたい。わさわさと群れてやって来て、騒がれたのではたまらん」
よほど騒がしいのが嫌いらしく、言葉がとげとげしい。
「そうだね。こんな風に静かに桜を楽しめる場所は、そうないからね」
私が同意すると、友人は意外なことを話し始めた。
「もっとも、桜どもはそれではつまらんのかもしれぬ。何しろこいつらときたら、人間が花見をするように、花見に来た人間を見て楽しんでおるのだからな」
「桜が、人間を?」
思わず私は問い返した。
「調子外れの唄を歌う者、酔っているにもかかわらず、へっぴり腰で踊って尻餅をつく者なぞは特に好まれる」
「…笑い話の種になるからな」
終わりの一言には、嘲笑めいたものが感じられた。
「それでは、さぞかしここの桜たちは退屈なことだろうな。こうして訪れる人間が、何の面白味もない私ではね」
思わず視線を落としながら呟いた。
桜たちが一斉にこちらを見ているような気がして、何やら申し訳ない心持ちがしたのだ。
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